楽器研究という世界 ・・・・(4)
-(楽器創造館HP:http://homepage3.nifty.com/mikms/から抜粋)-
4.楽器研究の実用性
確かに研究活動は世界で活発に行われている。しかしその成果が楽器ビジネスに活きたものは数多いとは云えない。しかしどんな分野でも研究が実用に結びつく確率は高くはないと考えれば特別に嘆くことではないと思う。
ヤマハでの例を挙げれば一九六八年ごろにコンピュータを使って管楽器の音程を正しく設計する技術を開発したときにもバッカスやベネイドの先行研究をまず学びそれと独自の研究成果を組み合わせた。ピアノ弦の設計においてもヤングやフレッチャーの論文に基づき振動の非調和性の定量計算を行ったり、ワインライヒの複弦振動の位相関係論などを参考にしたこともある。
( 写真1.ピアノハンマーが打弦した瞬間の弦の形状。縦方向に二十倍に拡大されているので弦は太くハンマーは細長く映っている。(by Nagai) )
( 写真2.パイプオルガンの発音時の空気振動流が形成される様子(by Verge) )
この二枚の写真は肉眼では見えない高速現象の可視化に成功した例である。物理理論の構築、さらに楽器改良のアイディアの着想のために有効な研究結果と云えよう。
ベルリン工大のクレーマー教授は楽器研究のパイオニアの一人であり一九五〇年代からパイプオルガンの原理、バイオリンの物理特性を科学的に考察している。筆者は彼の研究室に半年間滞在し共同研究も発表させていただいたことがあるのだが本質をついた考え方に多くの感銘を受けた。日本でもこうした研究の先人たちに刺激され影響を受けその後の独自研究を積み重ねて実用に繋げてきた歴史がある。
コンピュータ音楽の作品を発表したり、ディジタル型電子楽器への応用技術が紹介される場の代表例としては前記のICMC(国際コンピュータミュージック学会)がある。一九七六年に第一回がMITで行われ、それ以来毎年世界各国で開催されている。ディジタル音楽の父と言われるマシューズやリセは当会の創立時の主力メンバであり一九八〇年代を中心にヤマハ電子楽器に大幅に採用されたFM楽音合成技術発明のチョウニングなどもこの学会でよく発表していた時期があった。近年は日本人の参加も急激に増えている。
( 写真3.第一回ICMC学会(一九七六年)におけるパネルディスカッション風景、右からアレン、マシューズ、バーコーと初期のディジタル楽音発生技術のパイオニア達が並ぶ。 )
5.まとめ
楽器の改良研究についての現状とこれまでの成果について簡単に表現するとすれば次のようになろう。
楽器から音が出ることに関する物理現象については基本的なところは解明された。しかし、音を改善、新しい音色を創造するためのヒントを与えるほどには分かっていない部分がまだまだとても多い。従って今後の研究余地は十分すぎるくらいある。世界各国で多くの個人・大学・研究機関が楽器の研究に取り組んでいる。設立されている研究学会も少なくない。日本での楽器研究者は諸大学や研究機関の他にメーカー内にも多く、研究レベルは十分世界に伍するレベルである。しかし、商品化計画に基づくメーカー内での開発業務は別とすれば、今のところ研究学会で発表される研究成果の実用性については高いとは云えない。もちろん今後は期待できるのだがそうなるためのキーポイントは資金力のあるメーカーと大学や研究機関の協力体制作りではないだろうか。
音楽の世界が新しい発展を見ることで世の中にどれくらい資するかを数値化して示すことは誰にも出来まい。しかし楽器の研究成果の人間社会への貢献が小さいとも言い切れまい。楽器の世界は前述のようにまだまだ科学的に分かっていないことが多い。優秀な人材がひたむきな研究を続けていれば改善や創造のためのアイディアは今後も山のように生じてくることは間違いなかろう。 (完)
楽器創造館 永井 洋平


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